ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

金縛りの家系②

A君は語り始めました。

俺さ、この間卒業旅行に行って来たんだよね。九州なんだけど。九州ってさ、うちの本家?があるところじゃん。だからだと思うんだ、俺がわざわざ近づいたから。

俺、金縛りってそれまでなったこと無くて。友達が面白おかしく話してるのは聞いたことあるんだけど、それが心霊現象だとか思ったことはないんだよね。だってほら、もしそれがそういう類のものだったとして、動けなくなるぐらいどうってことないじゃん。そのまま寝てればいいんだから。

 

饒舌なA君が珍しくて、うんと私は頷く。

 

それで、卒業旅行の話なんだけど。三月に友達と四人で行って来たんだ、九州(県名は伏せます)。ラーメンとか食べたり、温泉とか水族館とか行ったりして、いろんなところに行って、たぶん三日くらいいたのかな。二泊ともビジネスホテルみたいなところに泊まって、二人ずつに分かれて寝たんだよ。俺とJっていう友達が非常階段の近くの部屋で寝て、俺が壁側のベッドで寝たのかな。ほんとに狭いベッドだったから、二つで一つみたいなベッド何だけど。日付が変わるぐらいには寝て、疲れてたからその時はすぐに寝れたの。でも何でか夜中俺だけ目が覚めちゃって、別にトイレに行きたかったわけじゃなくて、ぱっと現実に引き戻される感じ。スマホで時間確認しようとして、そしたら動けないんだ。よほど疲れてるんだなって思って、でも頭だけは動かせたから、何気なくJの方見たの。

 

そこでA君は一旦黙ってしまう。いるんでしょ、何かいたんでしょ、と思いながら私も黙って続きを待った。

 

いた。Jの真上に、女がいた。長い髪に隠れて顔は見えない。宙に浮いてて、ユラユラとかはしてなくて、でも小刻みに揺れてるような気がして、着物着てた。赤い着物。

 

赤い着物って、さっきおばさんが話してた座敷童の話と同じではないか。赤い着物、別に珍しい色ではないけど。何なら、私が七五三で着た着物も赤い着物だったし、私が昔見えていた座敷童の着物も赤かったような気がする。

 

怖くなってJを起こそうとしたけど声がでないし、Jも何だかちょっと薄ら笑ってるような気がして、怖くなってそのままじっとしてた。そしたら、インターホンが鳴ったんだ。もしかして向こうの部屋で寝てる二人かもって思って、でも動けなくって。急に、自分の後頭部が気になったんだ。気配を感じて、頭だけ動かして壁の方を向いた。いたよ、女の顔だけ。俺の顔のすぐそこに。にやにや笑って、頬がはち切れるくらい口角上げて、やっと気づいてくれたってみたいに嬉しそうに。たぶん俺はそのまま気絶したか何かして、気づいたら朝だった。Jはもちろん何も知らないって言うし、他の二人もインターホンなんて鳴らしてないって。帰る時に壁にかかった絵の裏側が気になったんだけど、怖くて見れなかった。お札があっても怖いし、無くても怖い気がして。

 

話し終わって、A君は疲れたようにはあ、と大きな声を出した。

「そのホテルさ、ネットとかで調べたりしなかったの?幽霊、とか心霊現象、とか案外出てきたりするんじゃない?それか過去に事件があったりさ」

提案しながら、私の手はポケットのスマホに伸びていた。このまま検索をかけようと思ったのだ。しかしA君は暗い顔をして、その上ため息なんかもついたりした。

「もしロミちゃんが俺だったらさ、自分が泊まったホテルにいわくがあったかなんて知りたい?」

知りたくないです、と半ば本音で答えて、私とA君は祖父母の家の玄関の付近に辿り着いた。家系かなあ、と私が言うと、やな家系だねとA君は気取って言った。家に入る時、隣の店に繋がる方の門の方に、一人男の人が立っていた。「お店、今日は閉まってますよ」と声をかけると、男の人は顔を上げた。偶然にも、男の人はにやにや満面の笑みを浮かべていた。頬がはち切れそうなくらいに口角を上げて。

何が怖いって、口元は異常なほど笑っているのに、目元は全くの無表情だったことだ。