ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

海のお姉さん(後)

おねえさんが作ったという砂のお城は、それは見事なものだった。

外壁は何か固いヘラで整えたかのように滑らかで、所々にホグワーツを彷彿とさせる鋭く尖った屋根が見えている。

「俺はこっちでお山作るから」K兄はせっせと砂をかき集めていく。

「ロミちゃんそこの貝殻とってくれる?」

私はおねえさんに言われるまま、足元に落ちていた大ぶりの貝殻を手渡した。そしてその貝殻を使って、おねえさんは器用に外装を整えていく。

「すごーい、どうやるの?」おねえさんが何者かよりもとにかくお城の方に興味がある私は、今では考えられないほど無邪気に訊ねていたという。本物の馬鹿かと思ったと毒を吐くK兄だが、幼稚園児なら大方そんなものではないか。K兄自身はこの時、人ならざる者にいつ取って食われるかと怖くてたまらなかったらしいが、実際はそんな素振りを全く見せないまませっせとお山を作っていた。

「ロミ、トンネル掘る?」

しばらくたって、大人の膝くらいはありそうな大ぶりの山を完成させたK兄は、すっと立ち上がり私に山のトンネルを掘る権利を譲渡してくれた。

それに大喜びした私は、ホグワーツを放り出してトンネル工事に勤しみ始めた。

「それ掘ったら帰ろうなー」と、K兄にしては早い帰宅宣告を告げられ、不貞腐れながらも私はトンネルを掘り進めた。すると、おねえさんも「私もこっち側からやっていい?」と私が掘る向こう側に回り込んだ。

K兄が作ったお山は本当に大きくて、なかなかトンネルは開通しなかった。ただ簡単に崩れないように固めて作ってあるため、途中で崩壊の心配はなさそうだった。

思ったよりすぐ、すかっと砂が薄くなる感覚が手をかすめた。肘までずっぽりと埋まるような深いトンネルの真ん中で、ふと冷たい何かが私の手を握った。

それはおねえさんの手以外にあり得なかった。

冷たい、といっても氷のように冷たいとかそういうのではなく、水に長い間浸かっていたから冷えた、というようなしっとりとした冷たさだった。

このまま真実の口のみたいに放してくれなかったらどうしよう、と思ったのもつかの間、意外にもあっさりとおねえさんは私の手を放してくれた。

そして、「完成したね」とおねえさんは笑いかけてくれたのだ。

ロミ、と私を呼ぶK兄を見上げると、その手にはUちゃんの日傘が握られていた。

それをK兄は無言でおねえさんに渡すと、おねえさんは砂のついた手で何も言わず受け取った。

「ロミ、帰るよ」

K兄は私の手をとると、挨拶も無しにおねえさんに背を向け、堤防の方へと歩き出した。来た時と同じように私を抱えて堤防の上に乗せ、K兄は自分も堤防を乗り越えた後、ふと確かめるように海の方を振り向いた。私もつられてK兄の視線の先を見ると、砂浜におねえさんの姿は無かった。けれど、それよりさらに向こうの明らかな海上に、先程K兄が渡した日傘をさす人影が見えた。人影と日傘は、だんだん小さくなっていった。

 

祖母の家に戻ると、中からおなじみの生野菜や主にトウモロコシの匂いが鼻の奥をかすめた。「また焼肉かぁ」と砂浜から立ち去った時以来、K兄は久しぶりに声を発したような気がした。家までの道中、私たちは不思議と会話をしなかった。

大人数が集まれるお座敷に入ると、みんなに遅いと文句を言われながら私たちは開いている場所に座った。

Uちゃんが「K、私の日傘は?」とK兄に尋ね、K兄が口ごもると「もしかして置いて帰って来たの?信じらんない!」と絶叫する。

「今度買って返すからさぁ」とK兄が手を合わせるも、「すぐお金と物で解決しようとするこの人は」と逆に機嫌を損ねてしまう。

そしてこの時のやり取りを最近になってK兄に話すと、K兄は「世の中大抵はお金と物で解決できるんだから仕方ないよー」と、その薄っぺらい態度こそがUちゃんが目くじらをたてる原因なのではと思うが、それも一理あると思わないこともないので私からは何も言えない。