ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

K神社(前)

私が中学生の頃、部活の先輩たちや友人と一緒に近場のショッピングモールまで遊びに行ったことがある。住んでいる地域がそもそも田舎のため、休日に遊びに行くところと言えば映画館のある大型のショッピングモールや互いの家くらいしか選択肢が無かったのだ。

普通に昼食をとったり、ゲームセンターで遊んだりとしているうちに時計の針が夕方を示しかけて、塾の時間も迫っていた私は皆と別れて一人先に帰ることにした。

塾の休み時間にふとスマホを開くと、先輩からラインが届いていた。

 

ロミーちゃんが帰った後、皆で(私や先輩が通っていた)小学校の近くのK神社で写真を撮ろうと思ったら、こんなものが撮れちゃった。ロミーちゃんこういうの好きそうだから送るね。大事にしてね!

 

と、こんな感じの文面と一緒に一枚の写真が送られてきたのだ。(本当は実際のやり取りと写真を添付したかったのですが、もうスマホの中に残っていませんでした。)

写真には、顔を寄せ合う先輩や友人たちが写っていた。Snowの加工で皆可愛く写っていて、それはいいとしても、問題は先輩たちの背後のお堂のようなところに浮かぶ無数のエフェクトだった。だいたい5つ以上はあっただろうか。(これもこの時私が写真を保存しなかったため今はもう確認することが出来ない。)

この時思い出したのが、以前このK神社で体験した不思議な出来事だった。小学6年生の春休み、つまりは中学校に上がる前の春休みの話だが、当時はだいぶ印象的だったはずのことも、何故だかこの神社の存在と共に今の今まで記憶から抜け落ちてしまっていた。

そもそもK神社は昔から幽霊が出ると密かに囁かれているようなひっそりとした寂し気な神社だが、地域のイベント事に使われたり、しばしば子供たちの遊び場所になったりとわりと身近な存在で、噂では座敷童風の着物を着た女の子の霊が出没するという話だった。

そんなK神社に、小学校の制服を脱いだばかりの私や数人の友人たちは春休みの暇な時間をなんとか潰そうと、昼過ぎから集まってゲームやらかくれんぼやらをして遊ぶ計画を立てていた。りっこやトムなど、今も付き合いのある仲良しな子たちもいたし、そこまで仲良くない派手めな女子たちや不良予備軍っぽい男子たちもいたりして、かなり混沌としたメンバーだったと思う。

 

私が通学用に新しく買った自転車を漕いでK神社に到着した時にはまだ全然人が集まっていなくて、お堂の屋根の下にぼんやりと一つの人影が見えるだけだった。近づいて目を凝らしてみたところ、暇を持て余したようにゲーム機をいじるトムの姿があった。

噂では、このお堂に何かしらのいわくがあるらしい。建物の構造的にも少し違和感があり、歴史の教科書で見るような高床式倉庫の豪華バージョンといった感じで、閑散とした神社のイメージとは裏腹にそこだけピカピカとやけに豪華なのだ。小さな小屋のようなお堂の中はおそらく空洞になっており、謎に光が漏れているのだが、入り口のようなものは無く中を覗こうとしても外からはちょうど見えない造りになっている。

そして、そのお堂がK神社の中心にドンと建てられている状態だ。

私に気づいたトムは顔を上げて、「中学でも今の塾続けるんでしょ」といきなり尋ねてきたから、「トムこそ、もっと進学塾みたいなところに移らないの」と逆に聞き返したのを覚えている。トムは俯きがちにゲーム機を閉じて、「行かないよ」と呟いた。

 

余談だが、トムという名前は漢字で書くと「十夢」になる。言うまでもなく、夏目漱石夢十夜からきているのだ。本人は今でもこの名前を嫌っているが、私はいい名前だと思う。

 

同級生の中でもとびきり頭が良くて、誰もが私立の中学を受験するのだろうと思っていたトムが皆と同じ地元の公立中学に進むと決めた時は驚いたが、この時は特にトムの様子がおかしかったような気がする。

「何のために(地元の中高一貫進学校の名前)受験しなかったと思ってるの」

何故か、今日はやけにトムがよく喋るなあ、と感心しながら「知ってるよ、好きなんでしょ」と訊ねた私もちょっとどうかしていたと思う。今なら絶対に自分からこの話題に突っ込んだりしない、単純に頭のいいトムとの口論は疲れるからだ。

トムはそれから何も言わず、黙って目を伏せた。

無駄に意味深なやり取りではあるが、つまりはそういうことだ。おそらく、トムはりっこのことを好きなのだ。私が今の塾を続ける+私とりっこはニコイチ=りっこも今の塾を続ける……という解釈で合っていると思う。

 

しばらくして、他の同級生たちも続々とK神社にやって来た。

初めに私たちはかくれんぼ(もしかしたらケイドロだったかもしれない)をしたと思う。

補足を入れると、これまでの一見どうでも良さそうなトムの色恋話は今後の展開に少し関係するので少々長めに尺をとることにした。

要約すると「トムはたぶんりっこのことが好き」ということだけ知っておいてもらえると嬉しい。