ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

門に佇む影

突然の来訪者というのは、たとえそれが人間であろうとそうでなかろうと厄介なものだ。

私の家の外には、ちょっとした門のようなものが玄関から通路を通って階段を降りた先にある。そしてその門はダイニングの窓から様子を窺えるようになっていた。

私が小学生の時の話だ。その日は台風が通過している最中と言うこともあり天気が荒れに荒れていて、庭の木がしなるほどの暴風に加え、父がせっせと手入れをしている芝生がほぼ水に浸かってしまうほどの有様だった。当然学校も休校になり、先日の夜からこの事態を予測していた私は昼前まで自室のベッドの上で過ごし、やっと一階に降りてきた頃にはすでに朝食をとるには遅すぎる時間だった。

学校が休みになったとはいえ、英語の塾は通常通り行われるようだと仕事中の母から電話があり、とはいえ塾の時間までにはまだ時間があるからと、同じく幼稚園が休みになった妹とアニメを見ながら追加で出された学校の宿題をやっていた時だった。

突然、ピンポーン、とインターホンがなった。

うちのインターホンは玄関から離れた門の向こうからチャイムを鳴らす仕組みになっていて、加えて中からスピーカー越しに話が出来る造りになっている。とはいえ私は普段から留守番中もしインターホンが鳴っても出なくていいと母から言われていたため、来客の気配を無視しつつ、果てには宿題のことも忘れアニメに見入っていた。

しかし、それ以降もインターホンは鳴りやまなかった。数十秒おきにピンポーンと鳴り響き、仕方なく中から声をかけようと立ち上がった。何度も鳴らすあたり、向こうは中に人がいることに気付いているのだ。

スピーカーをオンにし、はーいと返事をしてみるものの、外からは吹き荒れる暴風と大雨の音しか聞こえない。ちょうど帰ったところなのだろうかとダイニングの窓から門の様子を窺ってみるが、影になった門の向こうには人影があった。門から顔が飛び出ていないから、おそらくは子供だ。

もしかして同級生の誰かが遊びに来ていたずらをしているのだろうかもと思ったが、台風の中わざわざ外を出歩くようなお馬鹿な友達はあいにく心当たりが無かった。まさかりっこ……?と一瞬例の友人の顔が脳裏をかすめたものの、りっこはいつも裏から入ってくる(家の位置からしてその方が近い)し、わざわざ大雨の日にこんなことをするのはどうも彼女らしくない。

私は自分の部屋に駆け上がって窓から門の向こうを見下ろした。やはり、謎の人影が微動だにせず佇んでいる。しかも、その周辺には黒い靄のようなものが漂っているのだ。

これはたぶん、人じゃない何かだなー……、と意外にも冷静だったのは、私が家の中という自分のフィールド内にいて、相手はその外側(しかも門の外)という明らかに境界線を隔てた場所にいたからだと思う。

雨は相変わらず止む気配すらない。それどころか雷鳴まで鳴り響いている有様だ。

カーテンの隙間から外の様子を窺っていると、突然机の上の携帯電話が鳴った。相手の名前を見ると友人のトムだった。珍しい、と思いながら電話に出ると、明らかに不機嫌そうなトムが「今どこにいる?」と聞いてきた。家だと答えると、疑わしそうに「本当に?」などと続けて聞いてくる。本当に決まっているじゃないか。こんな天気の中公園でブランコでもしていると思ったのか。と、そんなことを答えると、トムはこんなことを言ってきた。

「さっきから、家のチャイムがずっと鳴ってる。」「窓から覗いたら人影が見えたから、見に行ってみたら誰もいなかった。なのに家の中から覗くとまた人影が見える。」「こんなイタズラしそうなのは(私含める数人の同級生)くらいしかいない。」などと散々な言いようである。電話越しに、トムの家のインターホンの音が聞こえてきた。

「実はこっちも同じ」と状況を伝えつつ、ふと門に視線を戻すと、黒い人影は姿を消していた。あれ?と思いつつよく目線を凝らすと、門が僅かに開いているのが見えた。

慌てて一階に降りて様子を見に行くと、アニメが流れたままのテレビの前には、さっきまでたしかにいたはずの妹の姿が無い。

嫌な予感がして玄関に行くと、妹は靴も履かないままドアの前で立ち止まっていた。どうしたのかと声をかけると、「手が届かない」と伸ばした手は今にも鍵を開けてしまいそうだった。

私は妹に、開けなくていいよと言って中に誘導すると、ずっと鳴っていたインターホンはとうとう鳴りやんだ。それと同時に、こころなしか雨も弱まってきたようだ。

二階に放り投げたままの携帯を回収しに行くと、トムはまだ通話を続けたままだった。「いつもの裏口ってさ、どこにあるの?」と、そんなことを聞いてくるものだから、私もわけが分からなくなってしまってそのまま電話を切ってしまった。

その後、だいぶマシになった天気の中塾に向かうと、りっこやトム等馴染みの面子が自宅の庭が如何にすごいことになっていたかという話で盛り上がっていた。ところで、今日の電話の裏口の件は何だったのかとトムに直接聞いてみたが、「裏口?」と本人は首を傾げるばかりだ。急にロミーの声が聞こえなくなったから切っちゃったけど、と話すトムの言葉に嘘はなさそうだった。