ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

自殺する霊(後)

後日、私はK兄に電話をかけてみようと思い立った。そうしたら、たまたまタイミングが合ったらしくちょうどK兄から私の携帯に着信があった。

私は結局看護師の正体はなんだったのかと聞くつもりだったのだが、K兄は残りの4つの怪談を私に教えるつもりで電話をかけたのだという。

え、いいよ。と私は断ったのだが、「遠慮するなって」とまるで聞く耳を持たない。K兄はとにかく話したくて仕方がないのだ。

例の五不思議が蔓延る病院は、K兄が今現在勤めている病院とはまるっきり異なる場所にあるわけだが、軽薄医師と親戚中で悪名の高いK兄は己の持つ全ての人脈とインターネットを駆使して、ようやく五不思議のコンプリートに漕ぎつけたらしい。

「うちの姉さん(Uちゃん)に止められて苦労したんだよ。『五不思議だか何だか知らないけど、あんた小学生の時も学校の七不思議にのめり込んで痛い目にあったでしょ、やめときなさーい』だってさ。でも気になるんだから、男のロマンは無視できんよな」

な、ロミ。と同意を求めてくるのはいいのだが、Uちゃんの物まねが妙に上手いのが気になるし、第一私に男のロマンの話をされても分からない。それに、きっとそれはK兄個人のロマンだ。Uちゃんは賢明である。ちなみにUちゃんは看護師をしていて、K兄たちの亡き父親、祖父は共に医者をしていた。彼らはいわゆる医療一家だ。

しかし、七不思議といえば私もあまりいい思い出が無い。小学校中学校、高校はさすがにないものの、どちらもお調子者の友人に誘われて検証を試みてはとんでもない結果を招いたものだ。

「それで、まずは例の看護師のことをはっきりさせねばと思いましてね」

K兄は電話の向こうで語りだした。遠くからガラガラと何かを引く音が聞こえてくる。まさか病院からかけているのか、とK兄の適当加減には呆れるばかりだが、23時を過ぎてまだ業務に励んでいることを思うとやや感服でもある。

「結論です。例の看護師は五不思議病院側の投薬ミスで亡くなった患者の親族でした」

薬?と電話越しに尋ねる。

「要するに薬の取り違え?まあ、厳密に言うと取り違えでは無いんだけど……つまり医療ミスよ医療ミス。ここはざっくりね、ざっくり」

俺薬のことはよく分かんなぁい、とおどけるK兄だが、現在の居場所が本当に病院ならあまり声を高々にしない方が賢明だろうと思われる。

「そもそも噂話も交じってるから真偽も確かじゃないしね。……それで、病院側は然るべき対応をしたわけよ。ごめんねーって。ミスは公にされなかったんだけど、親族は納得しなかったの。当り前だよな、回復間近だった家族がいきなり亡くなっちゃうんだから。でも厄介だったのがこの後、例のにせ看護師。その人の子供が当時医学部に通って……いや、研修医だったかな。とにかく子供が協力して、病院に報復しようとしたわけ。なんていうか、目には目を、ってことで病院の待合室にいる患者に無差別で危険薬物を打とうとしたらしくて。まあ、その薬自体が危険っていうか、大抵の薬物は使用量を守らなかったら危険になり得るんだけど……ううん、調べても出てこないよ。これも未遂で公にならなかったから。で、そもそも先の医療ミスがばれたくなかった病院側は全部まとめて隠しちゃうつもりだったんだけど、結局その人は病院の屋上で亡くなっちゃたんだよ。だからその霊が未だに階段でウロウロしてるんだってさ」

途中私が色々と口を挟みながらも、K兄は説明を終える。時計を見るとそろそろ日付を超えそうな時間だった。

「まあ、あくまで噂だよ。噂」

それがK兄なりの保険であるらしい。

「それでちょっと思ったんだけどさ。ていうか俺気づいちゃった」

何を?と続きを促したところで、K兄の声が聞こえなくなる。携帯を手で押さえて誰かと会話しているようだ。

「ごめんロミ。K兄呼び出しかかっちゃった。あとの四つはまた今度な。またそっちに遊びに行く」

私が何か言うよりも先に、通話は終了されてしまう。

後日、K兄からこんな内容のラインが届いた。

 

 

この前言い忘れたことです。あの話誰に聞いたかっていうと、なんとうちの姉です。姉の知り合いの看護師のさらに知り合いの看護師がその病院に勤めていたようです。渋りながらも結局教えてくれました。

それと、俺が気づいたこと。例の看護師の子供。●●さんっていう俺が通ってた大学の先輩です。けっこう綺麗な人です。図書館でたまに見かけてました。その人たぶん今もどこかの病院で普通に働いてます。俺がひよっこの時呼ばれた飲み会で見かけたことがあります。ご参考までに。