ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

K神社(後)

かくれんぼの最中、私が神社の奥の茂みの中に隠れていると(元)クラスメイトのMちゃんが「ここ、一緒にいい?」とやって来た。

Mちゃんは同級生の中でもかなり顔が可愛い方の部類に入る女子で、その上勉強もできるらしく春からは私立中学に進むことが決まっているという話だ。

とはいえこれまで直接的な関わりは少なかったため、どうしてわざわざ私のところに?といった疑問はあったが、Mちゃんは「聞きたいことがあって」と唐突に話を切り出してきた。

「私、(トムの苗字)君のことが好きなんだけど」

思わず聞き流しそうになるくらい綺麗な告白に声を出しかけそうになりながら、「えっそうなんだ」と私は無難に返事をする。

「(トムの苗字)君って、(りっこの名前)ちゃんのこと好きかな?」

イムリーすぎる質問に何故か何の関係もない私が過剰に動揺してしまって、「うーん、どうだろうね……」といった全く気の利かない返事をしてしまう。

「でも、路美子ちゃん的にはどう思う?」

早く見つからないかなと思いながら、「好き……なんじゃないかなぁ」と率直な感想を伝える。Mちゃんがりっこの名前を出した時点で、大方Mちゃん自身も薄々勘づいているのでは、ということは想像がついたし、私の意見を求められている手前、ここで適当に答えるのも何か違うと思ったのだ。

「そっか」とMちゃんは答え、続けて「ごめん(ね?)」と言いかけた途端「いたー」と鬼のりっこの声が近づいてきた。

ロミとM見つけた、と跳びかかってくるりっこの横をMちゃんはすり抜け、その時の「ごめん」と思いつめた、気まずそうなMちゃんの顔に私はどこか違和感を覚えた。

対して、「珍しいじゃん、Mと仲良かったっけ?」と不思議そうなりっこは、まさか自分が話の中心になっていたとはきっと夢にも思っていない。

 

しばらくすると、皆が各々ゲームやらお喋りを始めるものだから、私は神社の外にあった自販機に飲み物を買いに一人走っていた。

どれにしようかと指先を宙に彷徨わせていると、背後から誰かが駆けてくる足音が聞こえた。ロミー、と呼びかける声はトムのものだった。

「あのさ、さっき俺変だったよね。ごめん」

口早に伝えて、何のことを言っているのかを私が理解したのかが分かると、「聞かなかったことにしといて、無駄だとは思うけど」と、本当にそれだけ言って私を置いてまたみんなのところに戻って行ってしまう。

やっぱり今日のトムは変だ、と自販機からミネラルウォーターを取り出しながらふと思った。

 

異変は私が皆のところに戻った時には既に始まっていた。ロミー、と緊張した様子の友人が私の手を引き、皆が集まっているところに視線を向けると同時に、辺り一帯に響き渡るくらいの金切り声が鼓膜を貫いた。不快な声というよりかは悲痛の叫びと表現した方がしっくりくるようなどこか悲しげな声で、一瞬、文字通り巨大な金属か何かが擦れ合っているかのようだった。しかし、群がる皆の中心にいるのは他でもないMちゃんだった。そして、Mちゃんは例のお堂に向かって縋りつくように両手を伸ばし、頻りに「だって」(?)やら「もう」(その他の言葉はよく聞き取れなかったため今でも分からない)などと怒鳴っている。

そして、我を忘れたように泣きだすMちゃんに困惑しつつも寄り添うのは、Mちゃんと仲の良い数人の女子やりっこだった。男子の間でも、「誰か人を呼んでこよう」と言い出す者があって、2、3人の男子が入り口の鳥居の方向に向かって駆け出した。

Mちゃんの様子はまるで憑りつかれたようだったが、私たちには成す術もなく、出来ることと言えば一刻も早く大人が来てくれるのを待つのみだった。

何もできない罪悪感に耐えかねたのか、前方の女子たちの間で「(トムの苗字)が何とかしろ」という意見がちらほら目立ってくるようになった。彼女らはMちゃんの好意をもちろん知っていたのだと思うし、だからこそその状況を面白がる下心もあったのだと思う。

男子らにもつつかれたトムは仕方なくMちゃんを慰めるために前に出て、「大丈夫?」と声をかけた。するとMちゃんは少し冷静さを取り戻したように、「あのね」と呟く。

「来て」Mちゃんがトムの手を引き指さすのはお堂だ。しかしこのお堂に出入り口なんてものは存在しないし、Mちゃんが一体トムに何を望んでいるのかは全く分からなかった。

それでも、「ねえ」とMちゃんはトムの手を離さず、トムが思わず顔をしかめるほどのものすごい力でお堂へ引っ張っていく。これは流石にまずいと私含めた数人が二人を引き剥がそうと試み、今度はMちゃんがその中で(距離が近かったこともあり)先陣を切ったりっこに跳びかかったところで、近所のおじさん二人を引き連れた男子たちが戻って来た。その後の騒動については、私はMちゃんやその取り巻きらとは少し距離をとっていたため詳しくは覚えていないが、皆でK神社を出て近くの休憩所で飲み物を飲んでいる場面だけは今でもしっかりと覚えている。神社を後にした途端、次第にMちゃんが正気を取り戻していったことも。

その後、Mちゃんは予定通り私立の中学に入学し、それ以来私はずっとMちゃんとは会っていない。ただ、以降も親交が続いている他の同級生の話では、Mちゃんは今でも元気にしているそうで、あの時のことは小学校から中学校に上がる節目と言う特別な春が招いたイタズラで、そうでなかったとしても全部K神社のせい、ということでちょっとしたネタとして今でも片付けられている。