ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

警告

Tさんは毎晩仕事から家に帰ると、空気の入れ替えのためベッドの横の窓を開ける、というのが日々のルーティーンだった。Tさんの部屋はマンションの7階にあり、窓からは少し離れたところに大きなビルと、それに隣接する全く同じ造りのもう一つのビルが見える。Tさんが帰宅する時間帯にもビルのほとんどの電気は明々と灯っており、その様子を見るとTさんは「あそこにはまだこんなに働いている人間がいるが、俺なんかはもう家に帰っている」という満足感を得られるのだそうだ。そういうTさんの職場は、二つ並ぶビルのうち、Tさんの部屋の窓から見て左側の建物の中だった。

こんな何気ない日常を送っていたTさんだが、ある日を境に、窓の向こうに黒い影が見えるようになった。正確には、Tさんの勤め先のビルの高層階から、人影が落下しているのを見るのだ。そんな現象が毎日のように続いた。

黒い靄のような影が、突然ふっと空中に現れ、滑るように地上へと落ちていく。

とはいえ、夜の闇の中を遠目で見るため影のように見えているが、実際は色も形もちゃんとした人間の姿をしているのではないかと思われた。

それに、それはまるでTさんが帰宅して窓を開けるのを待っているかのように、Tさんが窓際に立った瞬間に現れるのだ。

これらのことを不審に思ったTさんは、ついに職場の同僚に相談をすることにした。

同僚は、「それはどう考えても幽霊だろう」とTさんをからかった。

以前ここで飛び降りた人間がいるのか、と聞くと、そんな人間は過去に一人もいないと言う。

隣のビルと間違えているんじゃないか、といった意見も出たが、Tさんが見た影は間違いなく今自分たちが立っているビルに出現している。それに、高さも大体Tさんたちのオフィスがある階に近い。

警告かもなあ、と真面目そうな顔をして同僚は言った。

曰く、死期が近い人間は奇妙なものを頻繁に見たり聞いたりするようになるらしく、Tさんが見ている影はTさんへと近づく死期と飛び降り自殺の可能性を示唆している、という説である。

だとすれば、俺はあのビルから飛び降りて死ぬのか。

Tさんの気分は相談前よりもますます重くなった。

しかし、最初に影が見え始めてから約2か月がたった頃、Tさんが当初よりあまり影を気にしなくなった頃になって、突然Tさんの前から奇妙な影が消えた。

報告を聞いた同僚も、良かったじゃないかとTさんの肩に手を置く。

翌日、同僚はオフィスの窓から転落し死亡した。

Tさんは後に、「あれは事故だ」と語ったという。