ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

魅せられる

階段といえばこんな話がある。小学校の時に通っていた英会話教室で知り合った、他校の友人から聞いた話だ。

友人が通っている小学校の階段には、一階から二階にかけての踊り場に全身鏡が設置されていた。たぶん多くの学校の階段の踊り場には、そういった鏡があると思う。

友人の学校の鏡も見た目はどこにでもあるようなありふれたものだったが、それには妙な噂というか、不思議な話が付きまとっていた。

その鏡は、生徒たちの間では「魅惑の鏡」と呼ばれている。いつからそんな名がついたのかは分からない。ただ理由ははっきりしている。

友人の小学校では、毎年一人決まって「魅惑の鏡」に魅せられる生徒が出る。男子か女子か、一年から六年のうちどの学年の生徒になるかは分からない。分かっているのは、先生たちの中から該当者が現れることは無い、ということだ。魅せられた生徒は、度々放課後に踊り場の全身鏡を訪れては、そこに縛り付けられたかのようにじっと鏡に映った自身を見つめるようになる。誰かが声をかけたり、動かそうとしたりしたところで魅せられた生徒はその場を動こうとしない。しばらく立つと生徒は糸が切れた人形のように気を失うが、目が覚めたところで自分が一心に鏡の中の自分を見つめていたことはすっかり忘れてしまっている。四月の新学期を境に、鏡に魅せられる生徒は入れ替わり、翌年の四月までこれが続くのだそうだ。

ちなみに、この鏡はその特性から「アヤツリ鏡」や「鏡地獄」とも呼ばれているらしい。後者については、鏡の存在を子供から聞いた江戸川乱歩好きの保護者が名付けたものではないかと思われる。

ある年の三月、もうじき次の被害者が現れるという時に、「魅惑の鏡」の撤去が行われた。元凶である鏡さえなくなってしまえば、この奇妙な現象も起こらなくなるだろう、といった至極もっともな考えのもとに遂行された。

四月、階段の踊り場から例の鏡は消えていた。しかし、鏡が無くなったとはいえ鏡があった場所は周囲の壁と比べて白く浮き出ていて、ついこの間までたしかにそこに鏡があったということは誰が見ても明らかだった。

数日後、無くなった鏡の前で呆然と立ち尽くす男子生徒の姿が目撃された。生徒は、その年入学したばかりの一年生だった。

「どうしたの」と鏡のことをよく知る先生が声をかけるが、男子生徒からの返事は無い。

どうやら、怪異が巣食っていたのは鏡ではなかったらしい。