ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

階段の怪異

私が通っていた小学校の階段にまつわる怪談話を、小学四年生の時に担任の先生から聞いたことを覚えている。

学校の校舎の階段の、二階から三階にかけての踊り場の上部には小窓があるのだが、それが見栄え上設置されたものなのか、一体どういう意味があってそこにあるのかは誰にも分からない。しかし、その小窓は校舎がまだ新しかったころからずっと薄暗い階段に光芒を散らしてきたという。

その昔、小学校にはこんな怪談話が流行していた。

真夜中の二時半、小窓から月の光が差し込まない新月の日に校舎の中から小窓を覗き込むと、外に広がる異世界を見ることができる。異世界には老婆が立っているから、老婆と視線が交わらないうちに小窓から目線を外さなければならない。でないと見た者は老婆に異世界へと連れ込まれる。そんな話だった。

昔の怪談にしてはやけに今時風と言うか、なかなかよく出来ていると思った。

ある新月の日、二人の男子生徒がその噂を確かめようと真夜中に校舎へと忍び込んだのだそうだ。その日返されたテストの点の低かった方が小窓を覗くということで、僅差で高かった方の生徒が下で肩車をすることになった。

下の生徒は、上になった友人が「見えた、歪んでる」だとか「ばあさんがいる」などという嘘くさい報告をするのを、あまり本気にしないまま聞いていた。こっくりさんでわざと十円玉を動かして場を盛り上げようとする人間がいるのと同じで、怪異の検証では如何に自分たちで雰囲気を出せるかが決め手だというまである。

だから下の生徒も、「じゃあ早くばあさんと目を合わせてみろよ」と催促したが、上の生徒は「早くおろしてくれ」と過剰に藻掻きだす。ノリがいいのは結構だが、あまり動くと落としてしまいかねないので本当に洒落にならない。

分かったよ、と下の生徒が屈もうとしたところで、ふっと肩の重さが消える。思わぬ重量変化にバランスを崩し、生徒は思い切りその場に転んでしまった。

目の前には上の友人が脱ぎ捨てた上履きが転がっていたが、肝心の友人の姿は見えなかったという。

隠れているんだろうと、そうであってほしいと願いながら友人の名を呼ぶが、普通、階段に人が隠れるような場所なんて無い。それに、どこか隠れられるところまで移動したとしても、階段を駆ける音は聞こえるはずだ。

友人が突如消えてしまったのだと悟った生徒は、覚束ない足取りで学校を出て家に逃げ帰った。冒頭の話は、その下になった生徒の証言をもとに語り継がれているという話だ。

ハズレくじを引かないために勉強をしろ、という教訓のように聞こえなくもないが、私はこれこそが現在も母校で語られている七不思議の一つ「真夜中の小窓に映る男子生徒」の原型なのではと睨んでいる。