ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

急がば回れ

中学生の頃の話。ただでさえ練習時間が長い吹奏楽部に所属していた私は、少し帰りが遅くなると冬場などは特に真っ暗闇の中自転車を漕いで帰宅せざるを得なかった。

その日も自主練のためいつもより帰りが遅くなり、私は友人のりっこと一緒に暗い夜道を二人並んで帰っていた。

道中、「こっちの方が近いんじゃない?」とりっこが急にブレーキをかけ、危うく私は

真後ろからりっこに突進しそうになる。

りっこが指し示した道は、普段私たちが通ることのない如何にも裏道といった感じで、薄暗いというよりはどっぷりと深い闇が包みこむような陰鬱な暗さ。

たしかに、その道を通ればいつも通る道を大幅にショートカットでき、おそらく私とりっこが別れる大通りに繋がっているのだろうが、それにしても暗い。暗いし怖い。

けれど、その日は真冬真っただ中ということもあり、そもそも自転車で風を切って進むのはすごく寒い。どんな道でもいいから、出来れば早いところ帰ってしまいたかった。加えて、今はりっこも一緒なのだから多少何か問題が起こったとしても一人で震えあがるなんてことにはならない。そう思った私は、りっこの提案を受けて、いつもは通らない近道に自転車ごと潜り込むことに決めたのだ。

裏道は、アスファルトで舗装されていないデコボコとしたあぜ道だった。誰が手入れしているのかも分からない、寂し気な田んぼの横を、私とりっこは並んで進んでいった。お喋りに気をとられていて気が付かなかったが、いつの間にか私たちは墓地の横を進んでいた。

とはいえ、墓地は墓地である。単にお墓が並んでいるだけで、特に怖いということもない。知らない土地の大きな霊園ならともかく、地元の小さな墓地ならなおさらだ。

しばらく進むと、道が二股に分かれていた。さあどちらに進むべきか、という話だが、私は何となく体感で右ではないかと思った。そのことをりっこに言うと、「えっ、左じゃないの?」とまるで意見が合わない。

「じゃあ私左行くから、ロミは右に行って。行き止まりだったら残念ってことで戻ってきたらいいよね」

ということで話がまとまり、私は自分の予想通り右に向かって進むことになった。行き止まりになって引き返すのは嫌だが、たぶんどっちに行っても大通りの方に繋がっているのではないかとも思った。実際、最初にこの道に入ったところの通りから大通りまでの距離と、これまで進んできた距離を考えても、残りの距離はそこまででもないはずだった。大通りに出た瞬間、同じく道を抜けたりっこと鉢合わせて「あれー」なんて言う未来が容易に想像できた。

特に何のカーブも障害物もないまま、ただただ真っすぐに進んでいくと、また先程と同じような墓地が現れた。意外に大きな墓地なのか、それか少し離れたところにもう一つ墓地があったのかと思いながら進むと、前方にはまた分かれ道である。困ったなぁ、と思っていると「あれー」と予想よりも早いりっこの素っ頓狂な声が聞こえた。

「今度も二人で分かれる?」と提案するりっこだが、私は自分がやって来た道を見て不思議に思った。

「りっこ、今どこから来た?」

りっこは首を傾げて、「そこ」と私がやって来た一本道を指さす。私がやって来た道は本当に完全な一本道で、途中で分かれ道なんてものも無かった。

この矛盾に気が付いたであろうりっこは「戻ろう」と言って自転車にまたがる。私も急いでりっこを追いかけて、私たちは無我夢中で元来た道を戻った。道中、りっこと別れた二股には辿り着かなかった。二回通ったはずの墓地も帰りは何故か一回しか現れず、そのことも余計に怖さを誘う。

私たちは無事に最初の道に戻ってくることができ、「やっぱりいつもの道で帰ろう」ということで、結局家に帰ることが出来たのはいつもの帰宅時間よりも大幅に遅れた時刻だった。身体もすっかり冷え切り、ご飯を食べながら母に叱られ踏んだり蹴ったりである。

急がば回れというのは本当らしい。昔の人はよく言ったものだ。