ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

試験帰り

私がセンター試験、というか共通テストを受けた日の帰り。

だから今振り返ってもそう昔のことではない。

一日目か二日目かは忘れてしまったが、おそらく一日目の話。

英語の出来があまりに悪く、泣きそうになりながら地元の国立大学を後にしたのを覚えている。だからこの奇妙な体験は、そんな私の心の奥底からくる疲労感と絶望から引き起こされたものなのだと思っているし、何よりそうであってほしい。

大学近くのコンビニまで迎えが来ている高校の友人たちと別れ、私はそこからさらに徒歩十五分ほどの無人駅へと向かった。

夜の闇の中には微かな粉雪が浮かんで、線路が一本しかない駅のホームは他の受験生たちで既にごった返していた。

私はどういうわけかホームの真ん中にぽっかり空いた隙間に滑り込み、電車が来るのを待った。発車まであと10分はある。

手短に、母に到着時刻を伝え、しかしどうにもそのままスマホを触る気にはなれず、何をするわけでもなくただただぼーっと腕を組んで正面を眺めていた。目の前には廃墟のようなぼろっちいアパートがあり、そのさらに奥には同じく古いビルがあった。

そういえば、昔はよく探検と称して友人とこういった廃屋に訪れたものだなとしんみりしていると、手前のアパートの二階の窓に、何か白いものが浮かび上がった。

不思議に思ってしばらく窓を見つめていると、白いものはゆらゆらと左右に揺れ始め、色もだんだんと濃くなっているような気がした。

人がいるのかな?と思ったけれど、一階の割れた窓や壁から突き抜けた木材の束などを見て、まさかそんなはずはないないと考え直した。

とっさに視線を逸らし、私はそのままぎこちなく周りを見回した。みんな数人で集まってお喋りをしていたり、スマホをいじっていたり、私以外その窓の方を見ている人はいなかった。

ここでやめておけばいいものを、わざわざ顔を上げてしまうのが私の悲しい性だった。怖いもの見たさから、私は白いものの方へ視線を戻した。

その時にはもう、白いものは消えていた。

ほっとしてため息をつくと、私は視覚の奥で何かが動いたのに気が付いた。奥のビルの窓に、例の白いものから伸びた2本の白い棒が、同じ速度、同じ向きにゆらゆら揺れている。

これ、腕だ。気が付いた瞬間、またもや白いものはふっと消えていた。

どういうわけか、周りのざわめきまでも消えている。左右を振り向くと、その場に立っている全員が顔をこちらに向けていた。何だこいつ、みたいな奇怪の表情ではない。真顔だった。

ぞっとして半ば導かれるように顔を正面に向けると、最初の窓に女の顔が浮かび上がっていた。暗さで表情までは分からなかったが、唯一口のようなものがにたっと吊り上がったのは確認できた。

まもなく電車が到着し、私はそのまま何事も無かったかのように電車に乗り込んだ。電車に乗った後も、下に俯いたまま廃屋の方は見なかった。

誰もいない不自然なスペースって、やっぱりいないからにはそれなりのわけがあるんだなぁ、と私は大学入試というイベントによって妙な教訓を得ることになった。

この出来事を後日、りっこという名の友人に話すと、流れるように卒業後の心霊スポット巡りの予定が決まってしまった。私がこれまでに体験した心霊体験の約半数は、大抵このりっこが絡んでいるし、幼い私を廃屋巡りという名の肝試しに誘っていたのもまたりっこだった。

正直なところ、わたしは怪談が苦手だし、幽霊もお化けも怖い。ただ、周りが妙に怪談に詳しかったり怖いもの知らずだったりで、ことある度に怪談と接してきた。

そこで得たものを、怪談日記という形で記していければと思っています。そうでないと、消化しきれない何かがいつかとんでもない仇になって不幸を呼びそうで怖いので……