ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

行ってはいけない教室(計画)

私が通っていた中学校には、入ってはいけない……というより、誰もそこに何があるのか知らない、といった不思議な教室があった。その教室は、体育館やクラブハウス(という名の部室棟)に続く渡り廊下に接続する、別館と呼ばれる建物の三階に存在していた。

とはいえ、別館自体には用があれば授業中に使うことも何度かあり、一階には階段状になった大規模なコンピュータ実習室、二階には柔道部が使用しているらしい武道場があったと記憶している。

三階に繋がる階段にはバリケードのようなものが設置され、それ以上は進めないように厳重な警備が敷かれていた。聞いた話では、バリケードを乗り越えて三階に上がろうとしたところを見つかった生徒は、先生にこっぴどく叱られ、親まで呼ばれる事態になったとか。先生に聞いても、ただの倉庫だと説明されるだけで、実際のところは誰も実態を知らないというのが現実だった。

外から見上げてみても中の様子は分からないし、いつの間にか幻の教室は中学校の七不思議の一つとしていつしか浸透していったとのことだ。三階教室には死体が隠されているとか、もしくは異世界に繋がるゲートが隠されているとか、現実的なところだと屋上に続く梯子があるから安全を考慮して封鎖しているとか、とにかくいろんな話が蔓延っている状態だった。

そんな中、その幻の教室の正体を確かめようと密かに計画を練っていたのが我が末代までの親友りっこ、そしてその話に便乗したのが小学校からの友人Tだった。普段ジェリーの愛称で呼ばれることの多いTだが、私は断然トム派であるため、このTという男のことは今後トムと明記することにする。(余談)

昔から成績も良く典型的な真面目系男子のトムは一見やんちゃをしそうなタイプではないが、実際のところはお馬鹿なことに突っ込みたがるお子様、というのが本人きっての分析だった。

作戦は中学一年の六月、登校中の自転車の上で練られた。雨が多い梅雨の時期はバスで学校に行くことが多くなるのだが、この日はおそらく天気が良かったのだろう。家が比較的近い私たち三人は、ちょうど通学ルート上のファミリーマートの交差点で鉢合わせ、一緒に学校まで行くことにしたのだ。

「前に強行突破で行こうとした時は、先生に見つかって大変だったんだよね」と話すりっこは、自転車で私の斜め前を漕ぎながら首を竦める。あの噂の元凶はお前か、と突っ込みつつ、私たちはりっこらの話に耳を傾けた。

「私だけじゃないって。これまでに先輩が何人も挑戦したけど全部失敗だったんだって。なんか、渡り廊下の方から普通に入るんじゃ駄目で、裏口の扉とかから入らないと監視カメラに映るんだよね。対不審者用のカメラ、門のところの」

私の後ろから、トムがスピードを上げながら自転車を走らせて、そのまま私の隣に並んだ。

陸上部のトムは心なしか自転車を漕ぐフォームも綺麗だった。

「裏口も駄目だよ、そもそも鍵開いてないし。無理やり開けたらバレた時大変だろ」

だからさ、と続けざまにトムが言った。

「中から窓の鍵を開けておいて後から普通に忍び込めばいいんだよ。裏口の向こうに廊下に繋がってる窓があっただろ。あそこから入れるんじゃない」

頭のいい人は悪知恵も働くんだなあ、と私が感心していると、「それ私が開けるの?」と如何にも面倒くさそうなりっこがぼやく。悪いことをするのは好きなくせ、そのための下準備は面倒という何とも厄介な性分なのだ。

「別に俺がやってもいいんだけど、りっこのクラス今日コンピュータ室使うんじゃない。そのついでに開けてきなよ」

りっこの性分を上回るトムのカリスマ性(?)と誘導力(?)で、あっさりと別館に侵入する手筈は整った。あとはりっこがちゃんと窓の鍵を開けてくれるだけだ。

「じゃあ、今日部活終わった後東棟の入り口のところで待ち合わせしよう。たぶん俺の方が早く終わるから」

そう言って、トムは私とりっこを追い抜いてあっという間に先へ行ってしまった。

向こうでジェリー、とトムを叫ぶ男子たちの声が聞こえてくる。

「トムがジェリーになった」

ロミはトムとジェリーどっち派?とりっこが尋ねるものだから、わたしはやはり「断然トム派」と意気揚々と答えた。