ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

黒い折り鶴(後)

いけないと思いながらも、トムはどうしてもそれを確認しなければいけないような気がして、糸から黒い折り鶴を一羽取り出しました。

そしてこれもいけないと思いつつ、鶴をもとの正方形の状態に戻したのです。

直感といいますか、そもそもがBに対して少しの違和感を感じていたわけですけれども。

ここで何故Bかと言いますと、陸上部の部員全員が鶴を折った中で誰もBがつくった鶴を見た人がいなかった、という事情があったからです。

しかも、誰にも折った鶴を見せないまま、最後に鶴をまとめて千羽鶴の形にしたのは他でもないBだったという話でした。

鶴を広げた時、ちょっとした衝撃でトムは思わず(ただの折れ目のついた紙と化した)鶴を落としそうになったのですが、すんでのところで空中キャッチを決めたらしいです。嘘か本当かは分かりませんが。

折り紙の裏側には、何か無数の渦のようなものが真っ黒なボールペンで乱雑に書き殴られていました。

 

続けざまにトムが他の黒い折り鶴の中身を調べると、他の折り紙にも全て同じような渦が描かれていました。描くというか、もはや執念のような、単なる作業によって形作られた記号の集合体のような。

とっさにBがやったんだろうな。と思ったトムは、やるせない気分の中千羽鶴の内部から黒い鶴の束を抜き取っていきました。Bに任せた百羽あまりの折り鶴は、すべて真っ黒な折り紙で作られていました。黒単体の折り紙なんてそう売っていませんから、ここまで集めるのにどれだけの時間と金と労力を費やしたかと思うと、部外者であるはずのトムもどこか悲しくなって仕方が無かったそうです。

この話をした時、トムは言いました。

もしかしたら、書かれていたのは渦じゃなくて「死」とか「呪」とかだったかもしれないんだよね。でもBはそういう文字は書かなかった。故意か無意識かは分からないけど、あの渦一つ一つにはBの負の感情が込められていたんだろうね。それがAの体調を悪化させてたってことかな。俺が黒い折り鶴を引き取った後は、Aもみるみるうちに回復していったよ。

 

その後、トムはAにもBにも黒い折り鶴の話はしませんでした。

Aが復帰した後も、二人は相変わらず仲が悪かったそうです。AはBが自分に対して何をしていたのか知らず、Bは自分がしたことをトムが知っていることも、もしくは自分が何をしていたのかも知らないままなのでしょう。

 

トムはこんなことも言っていました。

二人と小学校が同じの後輩に聞いたんだけど、二人とも、昔は仲がいい時期もたしかにあったらしいんだ。

たぶん、少なくともAはBのこと友達だと思ってたんだよ。ていうか、BにとってもAは友達だったと思うよ。

その点ロミーとりっこはいいね。小学校からずっと仲が良くて、無意識に相手の不幸なんて願ったことすらないでしょう。

 

皮肉にも、無意識なら分からないよなぁ、と思ったのはほんの秘め事です。