ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

黒い折り鶴(前)

友人トムといえば、ということで思い出した話があります。

彼は中学時代陸上部に所属していたので、それ絡みのお話になります。たしか本人が後輩の話だと言っていたので、私が二年か三年の頃に起こったことだと思います。

 

私が通っていた中学校はかなり規模の大きな学校で生徒の数も莫大だったのですが、陸上部は何故かあまり人気が無かったようで、三学年合わせても部員はせいぜい十人くらいだったようです。

運動部ですので、やっぱり気になるのは総体だとか、レギュラーだとかでしょうか。私はそういうのに詳しくないので分からないのですが、トム曰く、私たちの中学校の陸上部は何せ異様にタイムを気にする人が多かった印象があるようです。トム本人としては、「部活は余暇で本業は勉強以外にあり得ない」といったタイプなので若干周囲とは熱量が異なっていたようですが、元の性格が大らかで頭のいい人なので部内の人間関係に悩むようなことも得に無かったみたいです。

しかし、傍から見ても明らかに犬猿の仲というか、ウマが合わないというか、とにかく互いをライバル視して常にタイムを競っているというような困った後輩女子が二人、部内にいました。

便宜上この二人の名前をAとBにしておきます。

トムから見てもAとBの実力差は五分五分といったところで、若干Aの方が優秀かな、程度でした。しかし問題なのはそこではなく、二人のどうしようもない仲の悪さです。

部活中だけでなく、休憩中や合宿中にも明らかにギスギスした空気が漂っていて、それに耐えきれず退部の相談を持ち掛けた部員もいたという話です。

そんな中、夏の総体を直前にしたところでAが交通事故にあって入院しました。自転車での下校中、死角から飛び出してきた車と接触してしまったようです。骨が折れているらしく、総体にはたぶん出られないだろうということでした。

そして、それからお決まりの流れで陸上部ではAのために千羽鶴を折ろう、といった流れになったようです。これは私もトムに頼まれて何羽か鶴を折ったのでよく覚えています。トムは自分に渡された100枚あまりの折り紙を何人かの友人に分散して配り、放課後の教室でせっせと鶴を折っていました。

Bはというと、この企画には参加しないのかと思いきや、結局他の部員と同じように担当分の鶴を折ったという話です。

 

後日、その千羽鶴を部長と顧問がAのもとに届けに行きました。この時のAは入院中の病人とは思えないほど元気で、顧問のくだらない冗談にも声を出して笑える程でした。

しかし、数日ごとに誰かしらがお見舞いに行くうちに、だんだんとAの様子が変わっていっているのが分かったそうです。友人が話しかけても上の空で、怪我はほぼ治っていっているはずなのに顔色は悪くなる一方なのです。

 

Aが入院してから2、3週間がたったころ、皆とは少し遅れた頃合いでトムと陸上部の友人がお見舞いに行きました。

談話室に現れたAは、他部員の話通りだいぶ衰弱しているようでした。出された病院食にもほとんど手を付けず、目は虚ろでトムらが話しかけてもしばらくはろくな反応を示さなかったそうです。

やっとAが口を開いて発した言葉は、「すみません」でした。そして、「何か飲み物持ってきます」と覚束ない足で立ち上がると、自分の病室に戻ろうと踵を返すのでした。

「大丈夫、いいから。俺向こうの自販機で買ってくるね」

友人が立ち上がろうとすると、Aは「皆が持ってきてくれるのが、たくさん余ってるんです」

と、何やら二人の間で謎の攻防戦が始まりました。

「俺が持ってくるよ、どこにあるの?」

他の患者の目もあり、どうにかその場を丸く収めようとトムは立ち上がりました。

部外者がのこのこと入っていいのか、といった不安はあったらしいけれど、すれ違う看護師からも特に何も咎められなかったため、トムはそのままAの病室へと向かいました。

 

Aが言っていた飲み物は、ベッドの横にある小型の冷蔵庫に押し込められていました。トムはその中から適当に3本ペットボトル取り出してすぐさま談話室へと戻ろうとしたのですが、ここで妙に枕もとの千羽鶴が気になったのです。

一見鮮やかな千羽鶴ですが、トムが何気なく鶴を触っているうちに中の方から真っ黒な塊が姿を現しました。

千羽鶴って、何羽かを糸に吊るしてそれを最後に束ねて作るじゃないですか。そして、大抵見た目が良くないので黒とか灰色とかの鶴は外しておくんですね。

でも、トムが色鮮やかな鶴をかき分けてみると、中から真黒い鶴の塊がごっそりと出てきたそうです。異様な雰囲気で、たまたま混ざったわけでは無いことは明白でした。これにはトムもだいぶ不審に思ったようで、黒い鶴の一束を抜き取り、それをよく見てみようと考えたようです。

 

後半に続きます。