ロミーの怪談日記

路美子(ロミー)と申します。大学在学中。半創半実(半分創作半分実話)の怪談集です。実体験をはじめ、人から聞いた話や身近に起こった話など。

河童の存在提示

友人がどこからか持ち帰って来た話。

Hの実家は地方の、栄えも廃れもしない辺鄙な田舎町にあった。家を建てた当初は周囲一辺田んぼや空き地に囲まれていたらしいが、今では他に家も増え、家よりも田んぼの方が希少なほどに立派な住宅地へと変貌していた。

「前は夏になると家の二階から花火が見えていたのに」とHは度々文句を言っているようだが、建ってしまったものは仕方がない。

家が増えたことで子供の数も増えたが、子供同士での交流はあまり無いようだ。近所に遊べる場所がないのもあるし、最近の子供は昔と比べあまり外で遊ばないらしい。

遊び場所になりそうな場所と言えば、家から少し歩いたところは大きな河川があったが、流れが急なため好んで子供たちが釣りやら水遊びやらをする場所でも無いのだという。

 

さて、異変が起こったのは、県外の大学に進学したHが連休を使って実家に帰って来た日のことだった。

「ねえ、床が濡れてるんだけど」

とHの妹が怒鳴り、父が怒鳴り、かと思えば「あれっ、やっぱり濡れてない」と首をかしげる。いい加減にしてよね、と母は不満そうだったが、あっ、というHの声に再びリビングの扉から顔を覗かせる。

「濡れてる」

たしかに足に濡れた感触があったのだ。それも勘違いのレベルではなく、雨の日に出来た大きな水たまりに裸足で突っ込んだようなあからさまな感覚だ。

「濡れてないじゃない」

と母は顔を引っ込める。

たしかに床は濡れていなかった。

 

結局母はその場で「足に濡れた感触がする」という不可解な現象を体験こそしなかったものの、その後一応信じるまでには至ったらしい。

月末の川掃除にて、近所の奥様方も家庭内で同じような騒動があったのだと、皆口を揃えて話したからだ。その話は数日とたたないうちに自治会長の耳に伝わり、すぐさま霊媒師を呼ぼうということになった(もしかしたら霊媒師ではなく祈祷師等だったかもしれないが、又聞きに又聞きを重ねた話なのではっきりしない)。

 

私は友人の話に耳を傾ける。

「何か知らないけど、Hが帰って来る何日か前近所の賃貸に家族が引っ越してきたらしくてさ。その中に小さな子供が二人いたんだって。それで、いよいよ子供が集まりすぎたってことで河童を呼び寄せたんだろうって霊媒師が」

「河童」。川に捨てられて死んだ子供は、河童となって陸に帰って来るというその地域特有の言い伝えだ。河童は大人より同じ子供に引き寄せられるとされ、害は無いが今回のように住民に対し、自らの存在をアピールするためちょっかいをかけることがあるのだという。